<研究課題 概要>

研究課題: 愛知県における小児死因究明制度の導入に関する後方視的調査
(Retrospective Study on Applying Child Death Review in Aichi Prefecture)

研究の趣旨、目的:

愛知県衛生年報によると,愛知県で死亡した小児のうち原因不明(分類コード18000)のものが8%を占めています。一方,愛知県および愛知県医師会が小児科標榜病院に対して施行した行政調査によると,原因不明の死は25-30%程度であり, 1-4歳児の死因として最多を占めていました。また別の調査では,虐待の関連しうる死亡は小児死亡の4-7%と報告されていますが,愛知県の統計情報では年間あたり最大でも2%程度しか同定されていません。
「子どもの死亡」は,社会全体の子どもの健康や安全の指標とも言われています。しかしこれを論じるにあたって,基礎資料として用いられる公的統計で上述の乖離が生じることは,大きな問題です。欧米諸国では,その解決のため「小児死因究明制度(CDR)」を確立し,予防可能な子どもの死亡を減らすのに極めて有効と報告されています。
本邦でも死因究明制度が必要とされ,その具体的な方法論について各方面で検討されるものの未だ方法論として定まっておらず,制度確立のための基礎資料が不足しています。本研究は,CDRが愛知県でも行われ得るかを検証すること,またその有効性を検証することを目的としています。

研究の方法:

以下の多施設共同研究を,名古屋大学(中央研究施設)をデータセンター,調整役とし,他の共同研究機関とともに症例調査を分担します。

0. 調査対象
愛知県内の医療施設で2014年に死亡した(死亡診断書あるいは死体検案書を発行された)15歳未満の小児例すべてを調査対象とする。除外基準は設けない。

1. 症例登録(一次調査)
(1) 愛知県および愛知県医師会による先行調査の統計情報を参照し,①各病院で発生した小児死亡の件数,②それぞれの年齢,③死因と死因の種類(内因,外因,不詳の別)を抽出する。
(2) この情報から,複数の医師で新たに死因カテゴリー分類を行う。
(3) 死因の種類およびカテゴリー分類をもとに,全体をA群(疑義のない内因死)およびB群(その他の死亡)に群分けする。
(4) また,二次調査を行う調査者への症例割り付けを行う。

2. 症例調査(二次調査)
(1) 各病院の担当者に電話あるいは直接訪問により,①患者基本情報,②出生歴,③家族歴,④既往歴,⑤現病歴と死亡の状況,⑥死亡診断書情報,⑦剖検,について聞き取り調査を行う。
(2) この結果から再度,死亡診断書上の診断名によらない死因カテゴリー分類を追加し,加えて予防可能性トリアージを行う。
(3) 先行研究の様式を参照しながら,CDRデータシートに情報収集を行う。特にB群の症例は三次調査の対象になることから,討議のために必要な情報の脱落を可及的に予防するため,他地域での研究において試用されている詳細データフォーム(下記)を参照する。
*死因カテゴリーが「1. 故意の外傷・虐待・ネグレクト」である場合,「虐待の詳細データフォーム」
*死因カテゴリーが「2. 自殺または故意の自傷」「3. 外傷その他の外因死」である場合,「自殺・事故の場合の詳細データフォーム」
*死因カテゴリーが「10. 不詳」である場合,および死因カテゴリー「4〜9」に振り分けられ,かつ予防可能性トリアージが「C.予防可能性は低い」ではない場合,「その他網羅的な詳細データフォーム」
(4) 死亡48時間以内に救急搬送が行われた例については,救急隊活動記録を参照,あるいは所轄救急隊に聞き取り調査を行う。
(5) 解剖が行われた例については,剖検記録を参照あるいは,担当した病理学ならびに法医学教室に情報提供を依頼する。
(6) CDRデータシートの記入内容が連結不可能匿名化情報であることを確認し,中央データセンターに提出する。この集計をもとに,症例検討(三次調査)の対象となる症例を決定する。

3. 症例検討(三次調査)
(1) 一次・二次調査でB群に振り分けられた症例につき,専門家によるパネルディスカッションを行う。この場において,①死亡診断書記載の妥当性,②虐待(疑い)例,予防可能例について,予防策,③その他,重症小児患者の診療にあたって留意するべき事項,④行政や医療従事者への提言について討論する。
(2) 匿名化には十分留意するが,個別の症例に関しての議論であることから,守秘義務を有する有識者による非公開の検討とし,必要に応じて守秘義務に関する誓約書を取得する。有識者として,研究代表者,研究分担者,共同研究者のほか, CDRの経験のあるその他の医師,当局その他の関係する担当官等より選定する。

4. 結果の評価
主要評価項目は,対象となった死亡小児患者のうち,虐待確実および疑い例の抽出,および予防可能死の抽出とする。
また副次評価項目として,医師による死亡診断書記載のばらつきが生じる要因の抽出,予防可能死および虐待可能性が見落とされる割合とその要因の抽出,愛知県における小児死亡の動向に関する特徴の抽出,本研究を行政事業に応用するために参考になる事項の抽出とする。

5. 研究成果の公表
本研究は公衆衛生にとって極めて重要なものである。三次調査まで完了した後の結果は,関連する医学会・医学雑誌に発表し,また行政・司法の担当官に報告書を提出する。必要と合議された場合には,新聞等マスメディアに結果を公表する場合がある。これによって,子どもの死亡に関して社会的な認知を促し,これに携わる医療従事者の資質向上に寄与し,防ぎうる死亡を予防するための施策立案に関して基礎資料を提供する。
このいずれにおいても統計情報を公表し,個人の同定が行われないよう十分に配慮する。万が一特異な経過などで個人が推定されやすい例を提示する必要がある場合には,特に十分に注意を払う。調査の途中経過など個別のデータを,個人の推定が行われやすい状態で公表することはない。

研究機関:

名古屋大学大学院医学系研究科 小児科学分野,成長発達医学,救急・集中治療医学分野,法医・生命倫理学分野
名古屋市立大学大学院医学研究科 新生児・小児医学分野,法医学分野
藤田保健衛生大学 小児科学,法医学
愛知医科大学 小児科学,法医学
あいち小児保健医療総合センター
愛知県医師会 小児救急医療連携体制協議会

連絡先:

研究代表者
名古屋大学医学部附属病院 救急科  沼口 敦
〒466-8550 名古屋市昭和区鶴舞町65
TEL: 052-744-2659(代表)
Email: nummer@med.nagoya-u.ac.jp(@を半角@に変えて送信してください)


各大学研究担当者
愛知医科大学: 奥村彰久
名古屋市立大学: 齋藤伸治
名古屋大学: 沼口 敦
藤田保健衛生大学: 吉川哲史



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